老後2000万円問題やコロナ禍での全世界株高もあいまって、投資を始める人が増えていますね。
投資というと株、金、債券、仮想通貨、FXなどなど、、、色々手法はありますが、多くの時間を投資に割くことが出来ない勤務医の場合インデックス投資がお勧めです。
1年で○○倍にするといった劇的な利益は不可能ですが、複利の力を使った長期投資で着実な資産形成が可能となります。
例えば研修終了後26歳から65歳までの40年間毎月10万円積み立てて、年利10%で運用したとします。(S&P500の直近10年平均リターンは9.4%なので非現実的な数字ではありません。)
すると積立額4800万円に対して、運用総額は6億3200万円を超えます。まあ年利10%はなかなか難しいですが、約半分の5%だとしても1億5000万円は超えることが出来ます。
インデックス投資は指数に連動した運用を委託業者がやってくれるというものですが、最近人気な指数としてS&P500 というものがあります。
実はS&P500に投資するといっても様々な方法があります。
この記事を読めばS&P500への投資について確実に詳しくなれるので、最後までお付き合いください。
S&P500とは
エスアンドピーゴヒャク、エスアンドピーファイブハンドレッドと読みます。
”S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス”が算出しているアメリカの代表的な株価指数で、NY証券取引所、NYSE MKT、NASDAQに上場している”米国”企業の中から代表的な大型企業500社を選出し、その銘柄の株価を基に算出される指数です。
通常は500社で構成され、米国企業でないと組み入れられることはありません。
時価総額加重平均型であり、簡単に言えば時価総額が大きい企業ほど構成比率が増すことになります。
1941年から1943年における平均指数を10と定義して計算されており、2021年8月現在の指数が、4400前後を推移していることから約70年で440倍になっています。
構成銘柄に選ばれる条件は様々あり、詳細はこちらを見ていただきたいですが、大まかに言えば
・時価総額が 53 億ドル以上あること
・流動性が高いこと(浮動株が発行済株式総数の 50% 以上)
・4 四半期連続で黒字であること
となります。時価総額は5000億円を超える企業自体日本医は300社もないので、米国強し、といったところですね。実際米国でもこのS&P500構成銘柄だけで、時価総額ベースなら米国企業の80%をカバーすることになります。
さらにこれに加えて、構成銘柄の産業分野に偏りが起きないようにする、などの調整が入るため、実質米国経済とほぼ連動した動きをすることになります。
例えば誰もが知っている企業だとアップル:5.55%、アマゾン:4.34%といった風に純粋に1/500だと1社あたりの構成比率は0.2%のところ、実際は大きな比率を占めていることがわかります。
言い換えれば「簡単にGAFAに投資したい!」といったときにはS&P500に投資しておけばほぼ同じような値動きをするわけです。
S&P500に投資するにはどうしたらよいの?
実はS&P500に投資する、というのは正しくありません。
S&P500は上で書いた通り指数であり、ただの数字です。
S&P500に投資する、と一般に言われるのはS&P500に連動したファンドに投資することです。
つまり
”S&P500ってのが過去数十年に渡ってみると、右肩上がりの優秀なチャート描いているから、うちもあれに倣って構成銘柄選んだろか”
というファンドに運用を託すわけです。もちろん我々がS&P500と同等な構成銘柄を自分で購入することもできますが、すべてを購入するとそれなりの金額が必要になるのと、手間や手数料がかかるため、ファンドに任せる方が効率的でしょう。
投資方法としては
②国内ETF
③米国ETF
の3つの方法があります。
それぞれメリット、デメリットがあるので、以下を読んでいただき、各個人の性格や目的にあった先へ投資を行ってください。
投資信託
現在S&P500をベンチマークとしている国内投資信託は以下になります。(手数料順)
名称 | 信託報酬 | 積み立てNISA利用 | 運用会社 |
SBI・V・S&P500インデックス・ファンド | 0.0938% | 可 | SBIアセットマネジメント㈱ |
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 0.0968% | 可 | 三菱UFJ国際投信㈱ |
つみたて米国株式(S&P500) | 0.22% | 可 | 三菱UFJ国際投信㈱ |
Smart-i S&P500インデックス | 0.242% | 可 | りそなアセットマネジメント㈱ |
iFree S&P500 インデックス | 0.2475% | 可 | 大和アセットマネジメント㈱ |
NZAM・ベータ S&P500 | 0.264% | 可 | 農林中金全共連アセットマネジメント㈱ |
iシェアーズ 米国株式 インデックス・ファンド |
0.4125% | 不可 | ブラックロック・ジャパン |
農林中金<パートナーズ> つみたてNISA米国株式 S&P500 |
0.495% | 可 | 農林中金全共連アセットマネジメント㈱ |
米国株式インデックス・ファンド | 0.495% | 不可 | ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ |
農林中金<パートナーズ> 米国株式 S&P500 インデックスファンド |
0.605% | 不可 | 農林中金全共連アセットマネジメント㈱ |
上記10種類の投資信託はS&P500に準じて組み入れ銘柄、比率を調整しているため、ほとんど同じ値動きをします。
(売買のタイミングまで秒単位で同じわけではないので、誤差は生じますが)
では差は何でしょうか?
ズバリ手数料です
単純に手数料が安いものを購入すればOKです。
特に上位2つのSBI・V・S&P500インデックス・ファンドかeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)のどちらかでしょう。前者は少し前までSBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンドという名前でしたが、バンガード社の日本撤退に伴って、名称が変更されました。
どちらノーロード(=購入手数料無料)でかつ非常に低い信託報酬を実現しており、100万円を1年運用すると信託報酬として938円と968円だけ支払えばOKです。実際は隠れコストがあるので、実質コストとして前者は年0.1123%、後者は年0.1214%の運用コストがかかるのですが、それでも他の商品を圧倒する低コストです。実質コストにすいて興味のある方はこちらを読んでいただければと思います。
国内ETF
S&P500自体は米国株の集合体なので、それをベンチマークとしたETFは通常NY証券取引所で、ドルで購入することになります。
その場合円をドルに換えたり、税金が少々ややこしかったり、と色々な煩雑さが生じます。
それらを手数料を取ることで引き受けて、東証で購入可能なETFとしては販売しているものが以下になります。
【コード】名称 | 信託報酬 | 運用会社 |
【1547】上場インデックスファンド 米国株式(S&P500) | 0.1650% | 日興アセットマネジメント |
【1557】SPDR S&P500 ETF | 0.0945% | ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ |
【1655】iシェアーズ S&P500 米国株ETF | 0.0825%(2022.6.21まで) | ブラックロック |
【2558】MAXIS米国株式 (S&P500) 上場投信 | 0.0858% | 三菱UFJ国際 |
【2633】NEXT FUNDS S&P500指数(為替ヘッジなし) 連動型上場投信 | 0.077%(2022.3.30まで) | 野村アセットマネジメント |
ETFにおいても基本的にはS&P500と連動した動きをすることになるので、信託報酬に基づいてコストが低いものを選べばOKです。
ただし【1547】はやや頭一つ抜けて高く、【1655】と【2633】は期間限定での低コストなので、長期投資を考慮すると手を出しにくいですね。
無難に【1557】か【2558】が良いのではないでしょうか?
米国ETF
米国ETFがいいらしい!と聞いてもシステムがやや複雑なため、なかなか手を出せていない方も多いのではないでしょうか?
米国ETFの購入をややこしくしている障壁は2つ
①買い方がよくわからない
②税金問題(2重課税、外国税額控除)
でしょう。これさえわかれば普通の日本株と大差なく取引可能です。
①米国ETFの買い方
a. 円貨決済
証券口座に入っている日本円を使って米国ETFを購入する方法です。最もシンプル・簡単です。
しかし為替手数料をETF購入のたびに支払うことになることや、為替を交換するレートがETF約定のタイミング次第となるため、はっきりしないといったデメリットがあります。
b. 外貨決済
というわけで米国ETFを購入する場合にコストを抑えたい場合は外貨決済をお勧めします。
例えばSBI証券の場合を考えます。(米国ETF購入をするなら現時点ではSBI証券一択です)
SBI証券で日本円をドルに変換すると円貨決済の場合1ドルあたり25銭のスプレッドを手数料として取られます。つまり1000ドルの商品を買うには250円の為替手数料を取られるわけです(購入手数料は別にかかる場合もあり)。
一方で外貨決済をする場合はあらかじめドルを用意する必要があります。スプレッド(手数料)がより狭い方法で米ドルを手に入れてから証券口座に入金する方法もありますが、個人的に労力と旨味がわりに合わないと思うので、今回はシンプルに住信SBI銀行で為替取引したとします。この場合1ドルの変換にかかる手数料は4銭になるので、1000ドルで40円となります。さらにドルへの変換のタイミングも選べるので、円高の時に大量にドルを手に入れておくと、よりお得です。
※楽天証券を使う場合外貨決済でもスプレッド(手数料)が1ドル当たり25銭かかるので、円貨決済と差がありません。
②米国ETFの税金問題
国内の株やETFに関しては特定口座で取引をしていれば勝手に必要な税金はひいてくれますし、確定申告が必要になっても、言われるがままに入力していけば、特に難しいことなく処理をすることが出来ます。
しかし米国ETFの場合、自分でアクションを起こさないとインカムゲインである配当金に対して過剰な課税がされてしまうのです。
(キャピタルゲイン=売却益は通常の20.135%のみです)
このシステムが少々ややこしく、米国ETFに手を出せなくなっている方が大勢いると思います。
「ちっさいこと言ってんな!少々税金が多く持ってかれるのなんて気にしないわっ!」という太っ腹?なあなた。
それは太っ腹ではなく迷走なので、おとなしく国内ETFを買いましょう。。。
何が起きるのかというと米国ETFで100ドルの配当金が出たとします。するとまず米国で10%の税金がかかります。
100×(1-0.1)=90ドル
次にそこからさらに日本でも20.135%の税金がかかるため
90×(1-0.20135)=71.8785ドル
と実に30%近くが税金でもっていかれることになります。しかしこれおかしいですよね。。
通常特定の利益に対して2か国で課税することは認められていません。
なのでこれについてはしっかり申告して外国税額控除を利用することで一部を取り戻すことが出来るのです。
なぜ“一部”と注釈をつけたのかというと外国税額控除には上限額が設定されており、下記の計算式で算出されます。
・・・??
やっぱり国内ETFにしておこう、と思ったあなた。もう少しお付き合いください。
例を見ていきましょう。
① 課税所得1000万円、米国ETFでの配当金が年間10万円のケース
この場合何もしないと米国での税として10%の1万円、残りの9万円に対して日本で20.135%の18126円がひかれ、71879円が手元に残ります。
しかし外国税額控除を利用すると
所得税額 = 1000万円×33%-(所得控除=1536000)
= 176.4万円
国外所得総額 = 10万円
所得総額 = 1000万円
⇒控除限度額=176.4×10万円÷1000万円
= 17,640円
よって17640円が外国税額控除の限度額となるわけで、米国を出る時にひかれた1万円はそのまま戻ってくることになります。
② 課税所得1000万円、米国ETFでの配当金が年間100万円のケース
この場合何もしないと米国での税として10%の10万円、残りの90万円に対して日本で20.135%の181,260円がひかれ、718,790円が手元に残ります。
しかし外国税額控除を利用すると
所得税額 = 1000万円×33%-(所得控除=1536000)
= 176.4万円
国外所得総額 = 100万円
所得総額 = 1000万円
⇒控除限度額=176.4×100万円÷1000万円
= 176,400円
よって176,400円が外国税額控除の限度額となるわけで、米国を出る時にひかれた10万円はそのまま戻ってくることになります。
ここまで見て察しの良い方は気づかれたかと思いますが、このシステム平均的な所得の医師の場合絶対に上限を超えることはありません。
なぜなら控除の上限額は外国所得に176.4/1000をかけたものであり、外国所得×10%の税額を下回ることはないのです。
ただし住宅ローン控除等を併用する場合は控除額を共有することになるので、要注意です。
ちなみに確定申告の時に言われるがままにポチポチしていけば簡単にできるので、普段の確定申告に1手間増える程度、と思っていただければと思います。
それでは最後にS&P500に連動する米国ETFを見ていきます。
名称(略称) | 運用コスト | 分配金利回り | 運用会社 |
iシェアーズ・コア S&P 500 ETF (IVV) | 0.03% | 1.31% | ブラックロック・ファンド・アドバイザーズ |
バンガード S&P 500 ETF(VOO) |
0.03% | 1.35% | バンガード グループ |
SPDR S&P 500 ETF (SPY) | 0.0945% | 1.31% | ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ |
SPDRポートフォリオS&P 500高配当株式ETF(SPYD) | 0.07% | 4.99 % | SSGA ファンズ・マネジメント・インク |
SPDRポートフォリオS&P 500グロース株式ETF(SPYG) | 0.72% | 0.04% | SSGA ファンズ・マネジメント・インク |
SPDRポートフォリオS&P 500バリュー株式ETF(SPYV) | 0.04% | 2.15 % | SSGA ファンズ・マネジメント・インク |
Direxion デイリーS&P500ブル3倍 ETF(SPXL) | 0.95% | 0.15% | Direxion Investments |
色々あってややこしいですが、最もベースとなるのが、S&P500に連動する初めてのETFであったSPYです。1993年に登場したこのETFは非常に順調な運用成績を上げたため、追随する形でIVVとVOOが出てきました。
何事もそうですが、後出しのものは価格で勝負するしかないので、SPYに比べて半分以下の運用コストで対抗しています。
もちろんS&P500という同じベンチマークを指標に運用しているわけで分配利回りや値動きはほとんど同じです(多少の誤差は生じますが、本当に“誤差”の範囲といえるでしょう)
つまり単純にS&P500に投資する米国ETFを購入するのであればVOOかIVVを購入しておけばよいことになります。
最後に追加知識として知っていた方がいいことを補足しておきます。
主な3つのETFの下に書いた4つの銘柄です。SPDRから始まる3つはS&P500のなかからそれぞれ「高配当銘柄」「グロース銘柄」「バリュー銘柄」に絞って投資を行っています。つまり純粋にS&P500の値動きには連動しないものの、S&P500に採用される銘柄の中から選ばれた「高配当銘柄」「グロース銘柄」「バリュー銘柄」なので、米国企業でこうした銘柄への投資を行いたい人にはお勧めです。特にSPYDはETFとして圧倒的な分配金利回りを誇る人気の商品です。分配金を受けるとことは複利の観点からはデメリットもありますが、こまめに利益確定を行いながら長期投資を行えるため、ほったらかし投資だけだと暴落が心配、という投資家には分散先候補に挙げても良いでしょう。
またSPXLは個人的にはあまりお勧めしませんが、S&P500の3倍の値動きをするETFです。短期的な暴落時などに大量購入することで、リバウンドでの利益を目的として購入する人が多いですが、万が一リバウンドがなかった場合は損失も3倍になるので、初心者にはあまりお勧めできません。アメリカで実態経済にダメージのないイベントが起き、市場が暴落したら購入してみる、くらいの気持ちで、知っておく程度にしておいた方が賢明かと思います。
最後に
S&P500とは何か、なぜ現在人気があるのかについては理解できたかと思います。
そしてもしこれを読んだあなたがS&P500に関連した商品に投資したい場合投資信託、国内ETF、米国ETFに投資どれに投資すればよいのかをまとめると
・ 細かい値動きを追うのはめんどくさい、本業に支障がでそうという人
⇒投資信託の定期積立をお勧めします。
・多少は裁量をもって投資をしたい、でも還付とかはちょっとめんどくさいという人
⇒国内ETFをおすすめします。
・個別株とかを追うのは無理だけど手続きがややめんどくさい程度ならよい、米ドルを持っていたいという人
⇒米国ETFをおすすめします。
といった感じでしょうか?
これらの商品はいずれもSBI証券か楽天証券での購入が今のことろベターです。米国ETFの定期積立のみSBI証券でしかできませんが、あとはどちらもあまり変わりません。ただ細かい点を見れば優劣もあるので、今後どちらかの証券会社が改善・改悪を行う可能性もあるので、両方に口座を開いてみることをお勧めします。